エピソード 『土器を掘った男』


 大学時代に聞いた話である。

 ぼくの学生時代、母校では考古学の研究室が独立しておらず、日本史の研究室の一部であった。しかし、非常に教育熱心で学生の面倒みがよく、楽しく、大酒飲みで、しかも若くしてその世界では有名な都出比呂志先生に率いられていて、考古学専攻は活気に満ちていた。(考古学が独立していなかったことは、ぼくにとっては良かった。同じ研究室の学生ということで、専攻時代が違っても先生と一緒に飲みに行って、話をする機会を得た。都出先生は飲みに行くと、2次会であっても最初に「焼酎を一升瓶で下さい。」と頼んだ。「うちはキープの制度はないんですけど。」と言われても、「いえ、飲んで帰ります。残ったら処分して下さい。」そしてぼくたちには、「たとえ残しても、絶対こっちが安い。」と自信を持って話された。)
 何しろ考古学はいざ発掘となったら、体育会系の合宿のノリである。「♪夜は墓場で大宴会♪」であった。
 しかし、聞くところによると、他の大学は夜になってもライトをつけて掘っているのに、うちの研究室では、製図をしたりはもちろんするものの、日が落ちてからは決して掘らなかった(らしい)。
 その理由について、ある先輩が世にも恐ろしい話を聞かせてくれた。

 昔は掘っていたのだ。しかし、ある夕暮れ時、その事件は起きた。

 一人の熱心な学生が、薄暗い中で一心不乱に作業を続けていた。彼は発掘で使う小さなスコップで地面を懸命につついていた。

「おい、どうしたんだ」

という仲間の声に

「いや、ここ凄く固くて掘れないんだ。」

 強いライトをあててみると・・・。彼の手元にあったのは弥生土器であった。彼は固い地面と思い込んで、完璧な形で出土しようとしていた土器を突き壊そうとしていたのである。(弥生土器は『薄手で赤くて固い

 一瞬の静寂の後、現場は悲鳴に包まれた。幸い気がつくのが早かったため、破片の散逸は免れ、土器は完全な姿を取り戻すことが出来た。しかし、それからしばらくの間、彼は『土器を掘った男』と呼ばれることになった。

 コッワ〜!

 しかしこの話は、発掘など調査の時は、軽はずみなことや、いい加減なことをするなという戒めの為につくられた「お話」だと、ぼくは信じている。(信じていたい。) 

(2003.1.26)

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