2014年度大学入試センター試験『日本史B』問題解説

日本史B
 

 今年も受験生はおろか高校の教員にとっても初見の史料が用いられている。ぼく自身、リード文で勉強させてもらった。基本がきっちり理解できている受験生にとっては落ち着いて望めば、高得点がとれてもおかしくない問題だった。

 時に「大学入試センター試験の問題はぼろい(良問ではない)。」と言っている人がいるが、少なくとも日本で行われているマーク試験の中では、もっとも『学習指導要領』に忠実で良心的な問題だとぼくは思っている。


第1問
問1.Aが正解。猫でもできる猫問。aの内容は基本。bの内務省は、明治初期に大久保利通によってつくられた。彼が自ら設立した内務省の長官(内務卿)になってより、紀尾井坂の変で暗殺されるまでの間を「大久保政権」と呼ぶように、内政全般を担当した巨大省庁であった。アジア太平洋戦争後、GHQによって解体させられた。
 cは考えたらわかる。東北については坂上田村麻呂の時に、対蝦夷のため胆沢城が築かれたことを考えれば、青森まで支配できていたはずがない。また、沖縄は室町時代に尚巴志が琉球王国を建国したのである。奈良時代にすでに支配下に入っていたはずがない。沖縄が支配下に入ったといえるのは、江戸時代の初めに島津に侵攻され、慶賀使や謝恩使を派遣するようになってからである。dの選択肢中の「計会帳」は、「教科書に記述のないものを出題して、けしからん。」という人がいたら問題を読んでいない。リード文に写真1は「出雲国の国司が1年間にやりとりした公文書」と書いてあり、写真1の説明に、これが「計会帳」で「出雲国が進上した文書などが列記してある。」と記している。つまり、選択肢dの「公文書が中央政府に提出された。」は、与えられたリード文と写真の解説にそのまま書いてあるといえる。強いて言えば、戸籍が中央政府に提出されたか否かであるが、戸籍は3通作成され、そのうち1通は国衙、2通は中央へ送られた。
問2.Bが正解。これも猫。@の高師直は尊氏の執事であり直義と対立した。この対立が観応の擾乱の要因となっている。Aは論外。初代鎌倉公方は、尊氏の子基氏である。Cの三管領は足利氏一門であるが、「シバの畠は細かった」→「斯波・畠山・細川」という基本中の基本が分かっているかどうかの問題。なおBについては、エピソード 「生みの苦しみー観応の擾乱ー」を参照してください。
問3.Cが正解だが、これも猫。Tは、「名主・組頭・百姓代」のいわゆる村方三役で江戸時代。Uは地頭請(地頭請所)の説明で鎌倉時代。Vは、はっきり半済令と書いてある。室町時代であり、U鎌倉時代→V室町時代→T江戸時代である。
問4.Aが正解。猫。Xはそのとおり。閑谷学校は受験日本史で最も有名な郷学である。Yは、懐徳堂は大坂の町人出資でつくられた教育機関で山片蟠桃や富永仲基らがでた。これが違ったら、少なくとも阪大を受ける資格はない(懐徳堂と適塾は阪大の前身)。
問5.Bが正解。大政翼賛会ができた経緯が分かっていれば簡単に判断できる。ドイツとの同盟に消極的な米内光政内閣の時、近衛文麿がナチスドイツのような強力な国家体制をつくろうという「新体制運動」を提唱し、自らが枢密院議長の職を辞して、その先頭に立つことを表明すると、近衛の首相就任を期待して陸軍が米内内閣を倒した(軍部大臣現役武官制を利用して、陸軍大臣を降ろした)。そして近衛は首相に就任した(第2次近衛内閣)。この新体制運動の結実が、第2次近衛内閣時の大政翼賛会である。ただし、大政翼賛会は期待したような組織にはならず、隣保班(隣組)を最末端とする上意下達機関に過ぎなかった。
問6.これは、ちょっと難しかったかもしれない。しかしよくできていると思う。グラフの横軸が10年刻みであるように、選択肢@〜Cの出来事もジャストその時である。@の朝鮮戦争勃発が1950年は分かったと思う。Aの大坂万博について、ぼくは授業で三波春夫の「こんにちは〜、こんにちは〜世界の国から〜。1970年のこんにちは〜」を歌っているが、意外に戸惑ったかもしれない。1970年。Bの三池争議は、エネルギー革命の石炭から石油への時期だから高度経済成長期の1960年。そしてCの大日本産業報国会は、問5の大政翼賛会と同じ年だから1940年である。特に受験生が年代で迷ったのは、Bの三池争議だろう。実は大問6の設問7の選択肢Bが、結果としてヒントを与えてくれる。後はグラフで確認すればよい。

第2問
問1.出たねぇ、縄文時代。今年は絶対出ると言った通りでしょう。少なくともセンター試験「日本史」の作問者が、高校側の意見を相当に尊重してくれているのは、『大学入試センター試験問題評価委員会報告』の内容とその後の傾向を見たら分かる。要は、三内丸山遺跡(青森)と大森貝塚(東京)の場所を選ぶだけ。もちろんBであり、猫問であった。
問2.Aが正解。すべての教科書に載っていて、すべての受験生が習っていることを、与えられた史料で確認すればAだと分かる。これ違ったら出来た問題はなかったのではないか。@は1行目に「もとは男王がたっていたのだが、倭国が乱れたから、女王(卑弥呼)をたてた」と書いている。Bは4行目に「帯方郡に難升米等を遣わした」と書いてある。Cは最後の行に「親魏倭王」と書いている。ネズミでもできる。
問3.Cが正解。猫ですね。Uの大伴金村が失脚して、蘇我氏と物部氏が実権を争う時代となり、結果Vで蘇我馬子が物部守屋を滅ぼし、その馬子の孫にあたるT入鹿が山背大兄王を自殺に追い込むのである。
問4.Cが正解。親切な問題だよね。もしかしたら「アは選択肢の『懐風藻』(最初の漢詩集)と『万葉集』(最初の和歌集)は、ともに奈良時代に編纂されたものであり、紛らわしい。歌人というだけでは、和歌をさしているのか漢詩をさしているのか分からない。」と言う人がいるかもしれないが、その人も問題をよく読んでいない。史料として和歌が記されており、ここでいう歌とは和歌だと念を押してくれている。イにいたっては、税となった出挙であることは明らかだが、さらに新嘗祭は秋に収穫を感謝する祭であり、「春に実施する」のは祈年祭である。つまり、内容も時期も違うものを選択肢にしてくれているのである。これを親切と言わずして何と言おう。
問5.@が正解。その通りです。
問6.Aが正解。これも猫。bの庸は雑徭の誤り。cの在庁官人は遙任の誤りである。

第3問
問1.Cが正解。猫。@は、保元の乱のことだが、崇徳上皇と争ったのは白河上皇ではなく後白河天皇である。Aの後鳥羽上皇が鎌倉幕府との協力関係を重視したのであれば、承久の変は起こっていない。Bの『太平記』は『平家物語』の誤りである。「平家物語は、盲目の琵琶法師が平曲として語ったため、文字の読めない庶民まで広まった。」は丸暗記ネタである。Cはいわゆる「十月宣旨」のことである。
問2.Bが正解。猫。東大寺再建の勧請聖は重源に決まってるだろう。というより2代目が栄西だというのを初めて知った人は多かったと思う。そもそも、平氏に焼き討ちされた東大寺の再建は「重源+陳和卿」はセットネタ。仮に陳和卿を知らなくても、定朝は国風文化の時の「寄木造」だという基本が理解できていれば、消去法でも正答は導きだせた。
問3.Aが正解。猫。Tで、平安末期に平氏が日宋貿易に力を入れて、大輪田泊などを修築し、Uの鎌倉時代末に、建長寺船を元に派遣し、Vで室町時代に日明貿易で明銭を輸入した。
問4.4が正解。これも猫。蓮如のキーワードは「御文(手紙)と講(組織)」である。ダミーの題目は、日蓮宗が唱える「南無妙法蓮華経」である。そもそも一向一揆は浄土真宗だから念仏(南無阿弥陀仏)だろう。石山本願寺跡地が大坂城であるのは常識。
問5.Bが正解。そもそも五山は臨済宗であり、道元は曹洞宗だろう! 権力に接近した臨済宗は、五山の制で保護を受けるかわりに統制も受けた。室町幕府の保護のもと、五山文学などが文化の花がひらいたが、やがて幕府が衰退すると、五山の勢力も衰えていった。
問6.Aが正解。Xはその通り。Yは、正長の徳政一揆の話だと分かれば、徳政令とは土倉などから借りた借金の棒引きであり、年貢云々は関係ないと判断できる。しかも、選択肢は「年貢などの負債を返済すると宣言している」と書いている。よくこんなダミーを思いつくなと感心するが、受験生がこれを「正」だと考えたなら、相当にトンチンカンだと言える

第4問
問1.Aが正解。アは「島原」の乱です。イはリード文に「証拠の為に絵像を踏ます」と書いています。
問2.Aが正解。猫。@の「九十九里浜=鰯漁→干鰯(金肥)」は基本。土佐は鰹です。Bの刈敷・草木灰という鎌倉時代の肥料は、貨幣で購入する金肥ではないというのは、頻出。なお金肥は「干鰯、油粕」などである。Cは「灘の酒、阿波の藍」である。Aの入浜式塩田は、通史編「室町時代編5 産業・経済の発達」参照。
問3.@が正解。猫問以下のネズミ。Tはバリニャーニの金属製活字で桃山文化。Uは、浮世草子で元禄文化。Vは錦絵で化政文化である。
問4.Cが正解。Xは江戸時代の蝦夷地と松前藩のことが分かっていれば判断できる。米のとれない松前藩は、、当初、アイヌとの交易権を家臣に分与することで主従関係を結んでいた(商場知行制)が、後に本州の商人に請け負わせてリベートをとるようになった(場所請負制)。ということは、幕府が倭館を設けたはずがない。Yの北前船は、西廻海運(航路)を就航し、日本海側を北へ北へと行くわけだから、上方の酒を江戸に輸送したはずがない。そもそも上方の酒を江戸に輸送するのは南海路を就航した樽廻船である。
問5.Bが正解。Xは新井白石の『采覧異言』と『西洋紀聞』、Yは、そのまま。なお、ダミーの『ハルマ和解』は稲村三伯による蘭和辞書である。
問6.@が正解。Xは「下田・箱館」の箱館を選ぶ。問題なし。迷ったとしたらYであろう。授業では「異国船打払令」によって、モリソン号が砲撃され、これを批判した蘭学者たちが弾圧される蛮社の獄へとつながると習う。しかし、その場所までは触れられないのではないか。ここは推理が必要。選択肢は浦賀と長崎である。1792年にラクスマンが根室に来たとき、長崎回航許可証(信牌)を渡して長崎へ行くように言っている。事実、レザノフは長崎に来ており、その後、プゥチャーチンも長崎に来た。つまり、長崎に来た場合はいきなり撃たれることはないのではないか。浦賀という江戸近くに来たから撃たれたのではないか。この推理ができれば正答を導くことができる。

第5問
問1.Cが正解。これも親切な問題。猫。アの地券は言うまでもない。イは明治14年の政変で、大蔵卿であった大隈重信が失脚した後、大蔵卿に就任したのが松方であり、ここから「松方デフレ」と呼ばれる財政改革が始まる。何より江藤新平は佐賀の乱(1874年)で、すでに死んでいる。
問2.Cが正解。猫。条約改正の流れが分かっていれば、全く問題ない。解説の余地なし。
問3.@が正解。猫。「地価の3%を地主が金納」という丸暗記ネタが全て。
問4.Cが正解。これも考えたらできる。日露戦争は1904〜1905年である。酒税の比率が地租を超えたのは1900年であり、誤りだとわかる。Yの関税自主権の完全回復を成し遂げたのは小村寿太郎外相の時であることは、小学校の教科書にも載っている。その年代が仮に分からなくても、条約改正が成し遂げられた背景には、日清・日露戦争の結果、日本の国際的地位が高まったためであることができていれば、日露戦争後だと判断できる。租税収入に占める関税の比率が10%を超えたのは、これも1900年のことであり、誤りだと分かる。

第6問
問1.@が正解。下線部に「都市を中心に大衆文化が広がる」と書いてある。この大衆文化については、通史編「近代編後期5 大正・昭和初期の文化」の冒頭で、「これ(大衆文化)を現出させたのは、明治初期からがんばってきた義務教育の普及(日露戦争ごろ就学率97%)によってほとんどの国民が文字を読めるようになったこと。高学歴者の増加と職業婦人と呼ばれた女性の社会進出。そして彼らを主な受け取り手としてマス=メディアが発達したことである。」と記した通り。またYについては、リード文に手塚治虫は1928年生まれであると記されている。「娘の身売り・欠食児童」は、昭和恐慌、農業恐慌の話であり、これが1930年のことだと判断できれば、正文であると分かる。
問2.@が正解。猫。bの警察予備隊ができたのは朝鮮戦争のために生じる日本の軍事的空白を埋めるためであり、戦後の話。dの20歳以上はもちろん25歳以上の誤りである。
問3.Aが正解、これも猫。@は田中義一内閣の「モラトリアム3週間と日銀からの非常融資」で金融恐慌は沈静化した。Bは金融恐慌の誤り。Cは「嵐に向かって雨戸を開け放つ」と言われた金解禁によって、前年始まった世界恐慌の影響をまともに受け、昭和恐慌に突入することなった。
問4.Bが正解。Uのミッドウェー海戦の大敗北で戦局は不利に転じ、Tのカイロ会談に続いて、ヤルタ会談、そしてポツダム会談と進む。このポツダム会談の結果のポツダム宣言を黙殺した結果、Vの原子爆弾が投下され、さらにソ連が、ヤルタの密約に従い、日ソ中立条約を破って対日参戦したことで、日本は無条件降伏した。大きな流れが分かっていれば、正答を導くことができた。
問5.Bが正解。日本労働運動総評議会の結成は1950年である。戦後すぐにできた左派(共産党系)の組合である全日本産業別労働組合会議(産別会議)に対抗してGHQの後押しで、いわゆる「逆コース」の中でできた。これは知らない受験生も少なくなかったと思う。しかし、「労働組合は解散させられて、全日本労働組合ができた」という文章そのものが矛盾している。国語力があれば誤文だと判断できた。なお、「大日本産業報国会」であれば正文となる。
問6.Aが正解。猫。アは天皇の人間宣言である。イは「軍国主義者のレッドパージ(共産党員の公職等からの追放)」はないだろう。レッドパージという言葉の意味が分かっていれば、正答を導くことができた。
問7.Cが正解。うろ覚えでは間違ったかもしれない。「三種の神器」は、「白黒テレビ・電気洗濯機・冷蔵庫」である。その後の「新三種の神器=3C」と呼ばれたのが、「カラーテレビ・カー(自動車)・クーラー」であった。混ぜてあるね。
問8.Bが正解なのは言うまでもない。あらゆる分野の科学者を代表する機関として日本学術会議が設立されたのは、湯川秀樹がノーベル賞を受賞した1949年であり、ヴェトナム戦争開始(1965年)より前である。Aは、革新首長(社会主義系)が、福祉予算を削減するはずがない。Cの四大公害訴訟はすべて原告勝訴!これはお約束の内容である。
 

2014.1.19

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