頂いた質問から(13)

『東大日本史への取組方について』


 2013年11月12日、東大の問題を解くための取組方についてメールを受け取った。

 以前に書いた頂いた質問から(11)『東大日本史の書き方について』同様、有名予備校などで優れた先生の指導を受けることができず、それでもがんばっている受験生の参考になればと思い、そのやりとりを掲載することにした。
 実際には、メールのやりとりを通して、彼の質問の意味を確認しながら返事を書いたのだが、その点は要点がわかりやすいように改めてある。
 また、下線や文字の色は野澤が施した。


<いただいた質問>
はじめまして。
こんにちは! 夜遅くに失礼します。
今年東大志望で浪人していますP(実際には実名)と申します。年齢は19歳です。

さっそく 東大日本史に的を絞った質問をいくつかさせていただきますのでどうぞよろしくお願いたします。

1 勉強方法について
 まず、私の勉強方法について修正するところがございましたら厳しく指摘してもらえると幸いです。

 使うのは教科書一本。5月くらいには丸暗記を試みようと思いましたが効率の悪さに断念。そこで、大切な黒字付近の2.3行を中心に頭にインプットしていき、大きな流れを整理しつつ、すぐさま過去問。問題集は、塚原哲也先生の『東大日本史25カ年』を使っています。やりかたは古代なら古代だけ一気にやってしまうという方式で、どんなことが問われているかなどを把握する感じでやっています。
 そして解答例を見て、どこの指摘が足りなかったのかを教科書でチェックしそこを暗記するという感じで後は、与えられている資料を吟味しつつ解答をつくるようにしています。
しかし、資料を見てもその核となるフレーズや言葉がでてこない時や、教科書のどこを言っているのかがわからないことも多々あります。読み込みが甘いのか、知識の不足なのか。このことと勉強方法二点についてアドバイスよろしくお願いします。

2 東大日本史満点狙う
上記の通り、満点狙うつもりで日々取り組んでいます。そこで、満点獲得に必要な要素をアドバイスしていただけると助かります。

  以上、お忙しい中申し訳ないですが、御返事いただけるとこれから受験まで戦う術がまた追加できると思っていますのでどうかよろしくお願いします。


<野澤からの返事>

P君、こんにちは。 野澤道生といいます。
メールをありがとう。 君の質問にできる限り答えたいと思います。

まずは、一つ目の質問について。
 「使うのは教科書一本」は、基本的にOKです。使用している教科書を読み込むことが大原則です。
 ぼくのHPでも述べていますが、東大は教科書にないものはでません。 その際、黒ゴチを中心に把握していくのもOKです。
 『東大日本史25カ年』を利用して、まず過去問を解き、それから解答・解説で確認して、再度教科書にあたるというやりかた(どこの指摘が足りなかったのかを教科書でチェックしそこを暗記)も、OKです。

その上で、

>資料を見てもその核となるフレーズや言葉がでてこない時や、教科書のどこを言っているのかがわからないことも多々あります。
読み込みが甘いのか、知識の不足なのか。

 そういう訳でもありません。記されていないのですから。
 具体的に説明するために、今年度の第1問を例にしましょう。
 ここで核となる部分(柱)の一つは、「
倭王は中国皇帝の権威に依らなくても国内における支配体制を確立したので、遣隋使を送るころには、冊封体制から離脱することができていた。」です。厩戸皇子が派遣した遣隋使が、対等外交を主張したのは、小学校の教科書にも記されています。
 しかし高校の教科書にも「隋への国書は倭の五王時代とは異なり、中国皇帝に臣属しない形式をとり、煬帝から無礼とされた。」(山川『詳説日本史』)としか書かれておらず、なぜ、厩戸皇子はそれが可能だったのかということは素通りされているのです。
 でも、紀元前から5世紀末まで朝貢していたのに7世紀初めには対等を主張したことに、「なんで?」という素朴な疑問がわきませんか?
 東大の第1問は、受験本番で、そのことを考えさせたのです。 これが一部に「東大の問題はメッセージ性がある」と言われる部分でもあり、ぼくがいう「本質を問うてくる」というところです。

 けれども、この
教科書にもないことを、受験生が見抜くことは極めて難しい。 正直言って、ぼくの指導は、「気付くことが出来たら超ラッキーだが、それにとらわれる必要はない。」 というものです。それに力を入れて、参考書を読みあさるより、今、君がやっているように一冊の教科書から基本的な事項と流れをしっかりと理解すべきだと考えています。

 今年の第1問でも、与えられた資料と教科書に記されている内容を付き合わせると、「
朝鮮半島南部をめぐる軍事上の立場を有利にするために中国皇帝の権威を借りる一方、有力豪族を抑えて九州から関東までを勢力下に治め、政権の性格を豪族の連合から「天下」を支配する大王へ豪族たちが服属する形へと変化させた。」というもう一つの柱となる部分は、多くの生徒が書ける内容です。 

 HPにも書いているとおり、ぼくの答案は教科書に記されていることのみで書かれています。ですから塚原哲也先生や有名予備校の模範解答より内容的には劣ります。しかし、それで合格点がとれることは、ぼくの教え子も証明してくれました。
 受験は合否がすべててあり、「合格最低点をいかにとるかという人生をかけたゲーム」です。(ゲームだというのは、敗れても命までは取られないからです。)

 ですから、

>資料をみてその核となるフレーズや言葉がでてこない時がある

 これが、「冊封体制からの離脱」の部分であるなら、「へー、そうだったんだ。新たに一つ知識が増えたな。」と満足して次へ進みなさい。

次に二つ目の質問について。
 厳しいことを言うようですが、もう11月ですし
「東大日本史で満点をとる」という考え方を変えるべきだとぼくは思います。
 大切なことは
いかに合計点を上げるかです。「合格者ほど、手を付けずに捨てている問題がある」と言われる数学と違い、日本史はすべての問題に手を付けなければ、とても合格点はとれません。 東大日本史を解く上で忘れてはならないのは、書かなければならないこと(求められていること)を見抜く力です。
 君自身もわかっているようですが、今の東大日本史は「減点法ではなく加点法」と考えられます。 その加点のポイントは細かいことではなく、幹(柱)の部分を落とさないことだと考えています。

(ここで、彼から「
加点方式なら、その核となる部分が全てはいっていて、文の構成も問題なければ減点対象にはならないということでしょうか?」という質問が出された。)

 理論上は、そういうことになります。しかし、現実には不可能だと思います。 なぜ東大の発表は一番遅いのか?これはもったいぶっているのでもないようです。
 以前読んだ東大の先生の話では、「基準を決めて採点していても、これは!と思うような素晴らしい答案がでると、その生徒と他の生徒の間で差を付けるために、もう一度、採点基準を見直す。そしてもう一度、最初から採点をやり直す。」のだそうです。これでは君が書いた答案が、すべての要件を満たしていてなおかつ、4問とも全受験生の中で一番のものでなければ満点はでません。
 それでも答案の核となる部分が変わることはないでしょう。そして、この核となる部分は、今年の問題でも4題中3題は、教科書に書かれていることと与えられた資料から組み立てることができます。これは、ぼくの「2013年度 『東京大学』速報」 を見ても分かります。

 
最後に
> 塚原先生の東大日本史25ヶ年使っています。やりかたは古代なら古代だけ一気にやってしまうという方式で、どんなことが問われているかなどを把握する感じでやっています。

 近現代まで間に合うなら、それで構いません。解説の分量・内容ともに優れた問題集です。 ただし時間が足りないようなら、とりあえず『東大日本史問題演習 (東進ブックス 究極の東大対策シリーズ)』をまずはやってみるのがよいと思います。
 ただ、この問題集は『東大日本史25カ年』よりもさらに解説の部分が長く細かいので、それに振り回されないように。「教科書に載ってないものは不要」というスタンスは崩さないのがぼくのやり方ですので。(事実、生徒にも「その部分はパスせい。」と言いました。)

 あと、「
添削指導をしているか」という質問がありましたね。
 ぼくはまだ現役の高校の教員なので、ネット上での添削指導はしていません。ご了承ください。 ただ、どうしてもわからないものがあれば、メールしてください。できる範囲で応えたいと思います。


2013.11.17


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