エピソード 『往生要集』

 「地獄」というとどんなイメージを持っているだろうか。「血の池」「針山」「火炎」・・・。これらは全て「往生要集」に描かれた地獄図である。日本最初の「How to」物と言ってよい。「こんな地獄に行きたくなければ、こうしなさい。」という描写は、今読んでも迫力がある。
 その一つが「刀葉林(樹)」という地獄である。愛欲に溺れた男女が行くという。例えば男が、一本の木の下に立つと、木の上から愛してやまなかった女の声がする。「何をしているの、私はここよ。」男は女に会いたい一心で、木を登るのだが...。木の葉は文字通り、でできていて、これが全て下を向いている。全身ズタズタになって、血だらけで、木のてっぺんにたどり着くと、女がいない。今度は下から声がする。「何をしているの、私はここよ。」男は慌てて木を下る。今度は刃は全て上を向いている。これを繰り返すというものである。

 「コワ〜

 当時の貴族は、愛欲に溺れていなかった者のほうが少なかったから、「How to 往生」というこの本が、ベストセラーとなったのも、当然といえよう。

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