教科書には、「石油危機(オイルショック)→狂乱物価」のところで、トイレットペーパーを買いに殺到する人々の写真が掲載されている。
これは僕が小学校の中学年の時だった。「トイレットペーパーがなくなる」という噂が流れ、あの「お一人様一個限り」という文句に煽られ、奥様方は幼い子どもも一人のうちだと、抱いて、手を握りしめてペーパー買いに走り、大量に備蓄した。
僕のクラスも例外ではなかった。聞くところでは、みんなトイレットペーパーを買いに並ばされたらしい。らしいというのは、僕はその数少ない例外であったからである。
僕がクラスの話題についていけなくなった理由は、父の一言だった。ご近所の中で唯一行列に加わっていないことを母が心配すると、父は「絶対になくならない。なくなるわけ(因果関係)がない。」と言い、さらに笑ってこう続けた。
「もしも本当になくなったら、新聞紙で拭けばいい。」
果たして、トイレットペーパーはなくならなかった。子ども心に父親を尊敬したものである。
ところで、あのトイレットペーパーがなくなるという話。誰が言い出したんだろうなあ...
(2002.9)