2013年度 『一橋大学 その2』 

日露戦争と第一次世界大戦
                                           

 次の資料は、日本がかかわった2つの戦争に関するものである。これを読んで下記の問いに答えなさい。(問1から問4まですべてで400字以内)

資料A
 然れども快なる勝利は果して何物を汝に与ふ可き乎。(1)第一は幾千万、幾億万の公債に対する利息の負担に非ずや。汝、及び汝の子孫は長く此負担の為めに苦しめらるぺきに非ずや。第二に(2)諸般歳計の膨張と之に伴ふ(3)荷重の増税に非ずや。荷重の増税、是れ今日の国民に在て実に虎よりも怖る可き所に非ずや。

資料B
 斯かる次第で、日本は今日、同盟条約の義務に依って参戦せねばならぬ立場には居ない。条文の規程が、日本の参戦を命令するやうな事態は、今日の所では未だ発生しては居ない。ただ、一は、英国からの依頼に基く同盟の情誼と、一は、帝国が此機会に(4)独逸の根拠地を東洋から一掃して、国際上に一段と地位を高めるの利益と、この二点から参戦を断行するのが機宜の良策と信ずる。

問1 資料Aは、この戦争が始まって10日後の『平民新聞』に掲載された社説の一部である。この戦争の名称について答えなさい。また、下線部(1)~(3)が、政策として実際にどのように行われたのかについて、具体的に説明しなさい。
(問題訂正がなされており、「10日後」→「6日後」と指示された。)

問2 資料Aを執筆したと考えられる人物を2名挙げなさい。

問3 資料Bは、ある外務大臣の閣議での発言である。この人物の氏名、および彼が参戦を呼びかけている戦争の名称について答えなさい。また、下線部(4)はどこのことか。具体的な都市名を1つ挙げなさい。

問4 資料Bをふまえながら、日本が参戦した目的、それを実現するためにとった行動、その後の結末について具体的に説明しなさい。


<考え方>
問1 要求されているのは、
(1) 資料Aで取り上げられている戦争名を書く
(2) 幾千万、幾億万の公債、諸般歳計の膨張、荷重の増税が政策としてどのように行われたかを具体的に書く

ことである。

 Aで取り上げられてい戦争については、問題文に『平民新聞』とあることから、
日露戦争だと判断できる。日露戦争において、公債の募集、歳計の膨張、増税がどのように行われたかを書くことになる。
 教科書(山川『詳説 日本史』)のP.272の脚注②には「約17億円の軍事費のうち、約13億円を内外の国債に依存し(外債約7億円・内債約6億円)、国内の増税でまかなわれたのは3億2000万円弱であったが、これも国民負担の限度に近かった」とある。また、本文中に「日本は、ロシアの満州占領に反対するアメリカ・イギリス両国の経済的支援を得て」とある通り、外債を購入してくれた国はアメリカ、イギリスであった。(これは多くの高校で教えていると思う。)

 しかし、
山川の教科書に記されているのは以上であり、これでは「諸般歳計の膨張」と「荷重の増税」が政策としてどのように行われたかを具体的に書くことはできない。

 これに対して
実教の教科書(「日本史B」)では、P.290に

 大国ロシアとの戦争は日本の国力をこえたものであり、戦費のなかば近くが英米への外債でまかなわれた。また国民の負担も大きく、多数の成年男子が動員されるとともに、非常特別税が課せられた。(注)戦費にあたる臨時軍事費は約18億円(これまでの国家予算は2億円台)で、うち13億円は内外債でまかない(外債7億円、内債6億円)、増税は3億2000万円に達した。

これなら、問われている内容を満たすことができる。原則を破って申し訳ないが、この
実教の記述をまとめる。

これまでの国家予算は2億円台であり、ロシアとの戦争は日本の国力をこえたものであった。戦費の大部分は内外債でまかなわれ、外債の多くはイギリス、アメリカが引き受けた。国民に対しては非常特別税を課して、増税を行った。


問2 要求されているのは、『平民新聞』で日露戦争反対を唱えた人物2名であり、これは幸徳秋水堺利彦だと答えられなければならない。


問3 要求されているのは、資料Bを述べて、参戦を訴えた外務大臣とその戦争、そして下線部(4)にある東洋のドイツの根拠地である。資料Bは有名な外務大臣加藤高明の発言であり、これも、
加藤高明第一次世界大戦青島だと答えられなくてはならない。


問4 要求されているのは
(1) 日本が第一次世界大戦に参戦した目的について書く
(2) それを実現するためにとった行動について書く
(3) その後の結末について書く
(4) その際、
資料Bをふまえる、
 
ことである。

 わかりにくいのが、「その後の結末」というところである。結末って何だ?きっと東大ならこんなわかりにくい問い方はしないと思うが、文句を言っても仕方ないので、順序立てて考えてみよう。

(1)の日本が参戦した目的は、資料Bにある通り、①
イギリスからの依頼による日英同盟のよしみと②この機会に東洋におけるドイツの拠点を占領して、国際的な地位の向上をはかることである。

(2)それを実現するために、教科書(山川『詳説 日本史』)P.297にあるように、「
日英同盟を理由にドイツに宣戦し、中国におけるドイツの拠点地青島と山東省のドイツ権益を接収し、さらに赤道以北のドイツ領南洋諸島の一部を占領した。そして中国の袁世凱政府に二十一カ条の要求を突きつけ、大部分を承認させた。」のである。

 そうなると、(3)の結末というのは、これらの中国で得た権益がその後どうなったか書くことを要求していると理解できる。これに関する内容を、教科書のP.298~306から抜き出してみる。
ア 袁世凱のあとを継いだ段祺瑞内閣に対して西原借款を与えて日本の権益の拡大につとめた。
イ ロシアとの間で極東における両国の特殊権益の擁護を確認しあい、イギリスとの間では覚書を交わしてドイツ権益の継承を確認させた。
ウ アメリカとの間でも石井・ランシング協定を結んで、中国の領土保全・門戸開放と日本の中国における特殊権益の承認と確認しあった。
エ ヴェルサイユ条約によって、日本は山東半島の旧ドイツ権益の継承を認められ、赤道以北の旧ドイツ領南洋諸島の委任統治権を得た。
オ 中国ではこれに反発して反日国民運動である五・四運動がおこった。
カ 山東半島の旧ドイツ権益は、ワシントン会議で結ばれた九カ国条約にもとづいて、中国へ返還された。

となる。これらをまとめると次のようになる。

 
日本は中国権益の拡大をはかるとともにロシア・イギリス・アメリカにその旧ドイツ権益の継承の承認を確認させた。さらにヴェルサイユ条約によって、山東半島の旧ドイツ権益の継承を認められ、赤道以北の旧ドイツ領南洋諸島の委任統治権を得た。これに対して中国では反日国民運動である五・四運動がおこった。その後、山東半島の旧ドイツ権益は、ワシントン会議で結ばれた九カ国条約にもとづいて、中国へ返還された。

以上を、全部で400字でまとめればよい。


<野澤の解答例>
1日露戦争。これまでの国家予算は2億円台であり、ロシアとの戦争は日本の国力をこえたものであった。戦費の大部分は内外債でまかなわれ、外債の多くはイギリス、アメリカが引き受けた。国民に対しては非常特別税を課して増税を行った。2幸徳秋水。堺利彦3加藤高明。第一次世界大戦。青島4日本はアジアにおける権益を拡大して国際的な地位の向上をはかること目的に、日英同盟を理由にドイツに宣戦した。そして中国山東省のドイツ権益を接収し、赤道以北のドイツ領南洋諸島を占領した。さらに中国の袁世凱政府に二十一カ条の要求を突きつけ、大部分を承認させるとともに、欧米諸国にこれを確認させた。その後、ヴェルサイユ条約で山東半島の旧ドイツ権益の継承を認められ、南洋諸島の委任統治権を得た。これに対して中国では反日国民運動である五・四運動がおこった。この山東半島の権益は、ワシントン会議で結ばれた九カ国条約に基づいて中国へ返還された。(400字) 

2013.3.19


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