2012年度 『一橋大学 その3』 

大日本帝国憲法と日本国憲法の相違点
                                           

【Ⅲ】次の2つの史料は、1889年に発布された大日本帝国憲法と、1946年に公布された日本国憲法の条文である。これを読んで、下記の問いに答えなさい。(問1から問4まですべてで400字以内)

資料1
第一条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第四条 天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ

資料2
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第一四条 ①すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第二四条 ①婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
       ②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。

問1 資料1にみるように、大日本帝国憲法は、天皇を「統治権」の「総攬」者と規定していたが、それに基づいて天皇は、いくつかの強大な権限を有していた。そのうち2つをあげ、その内容を簡潔に説明しなさい。
問2 大日本帝国憲法を全面的に変えた日本国憲法の草案は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の直接の起草によるものであった。なぜ、GHQは、草案の直接起草に踏み切ったのか、その理由を説明しなさい。
問3 GHQによる憲法草案の内容には、敗戦直後からの日本側のさまざまな試みが影響を与えていた。それを具体的に説明しなさい。
問4 日本国憲法の制定を受けて、その規定に従い、大日本帝国憲法下の法律の多くが改正された。資料2の一四条、二四条の条文を参照して、憲法制定を受けて改正された法律を2つあげ、その内容を具体的に説明しなさい。

<考え方>
問1 要求されているのは、
(1) 大日本帝国憲法で規定されていた
(2) 天皇の強大な権限=天皇大権について
(3) 2つあげ
(4) その内容を説明する

ことである。

 山川の『詳説 日本史』には天皇大権についてP.260に「
文武官の任免」、国防方針の決定、陸海軍の統帥(作戦・用兵など)、宣戦・講和や条約の締結など、議会の関与できない大きな権限を持っていた(天皇大権)。また、このうち陸海軍の統帥権は、内閣からも独立して天皇に直属していた(統帥権の独立)。」と記されている。ここから2つとって説明できればよい。
 おそらく多くの受験生はまず「陸海軍の統帥権」を選んだのではないか。ではもう一つは何か。何を選んでもよいが、説明しろと言われてもそのままである。(例えば「宣戦・講和」を選んだら、他国と戦争を行う際の宣戦布告や講和条約の締結」としか説明できない。)しかし、それでいいのだと思う。(バカボンのパパみたいだが、出題のねらいは「天皇大権の何たるか」の理解を測っているのだと考える。)

 ただ、阪大の解説を書くのに利用している
実教の教科書には「緊急勅令制定」が挙げられており、脚注に「議会の協賛を得ないで天皇が発する法律にかわる命令。ただし次議会で承諾が得られなければ効力を失う。」と書かれている。
 山川の教科書でという原則からはややはずれるが、解答例は統帥権と緊急勅令で作ってみた。

 「
陸海軍の統帥権。緊急勅令の制定。統帥権は軍の作戦・用兵などについて、議会だけでなく内閣からも独立して天皇に直属していた。緊急勅令は議会の協賛を得ないで天皇が発する法律にかわる命令であるが、次議会で承諾が得られなければ効力を失った。

 
問2 要求されているのは、
(1) 日本国憲法の草案について
(2) GHQが直接起草に踏み切った理由を説明する

ことである。

 『詳説 日本史』のP.352に「
幣原内閣はGHQに憲法改正を指示され、憲法問題調査委員会(委員長・松本烝治)を政府内に設置した。しかし、同委員会作成の改正試案がいぜんとして天皇の統治権を認める保守的なものだったため、GHQは極東委員会の活動がはじまるのを前に、みずから英文の改正草案(マッカーサー草案)を急きょ作成して、1946年2月、日本政府に提示した。」とある。

 まとめると、「
幣原内閣が設置した憲法問題調査委員会が作成した改正試案が、いぜんとして天皇の統治権を認める保守的なものだったため、GHQは極東委員会の活動がはじまるのを前に、みずから改正草案を作成した。」となる。


問3 要求されているのは
(1) GHQによる憲法草案の内容に、
(2) 影響を与えた敗戦直後からの日本側のさまざまな試みを
(3) 具体的に説明する

ことである。

 『詳説 日本史』のP.352の脚注に次のように書かれている。「
高野岩三郎らによる民間の憲法研究会は、1945年12月に主権在民原則と立憲君主制をとった「憲法草案要綱」を発表し、GHQや日本政府にも提出していた。GHQはマッカーサー草案を執筆した際、この「憲法草案要綱」をも参照した。

 そのまま使える。


問4 要求されているのは
(1) 資料2の一四条、二四条の条文を参照して、
(2) 日本国憲法制定を受けて改正された法律を
(3)
2つあげ、
(4) その内容を具体的に説明する。

 
ことである。

 一つはすぐに思いついたと思う。

 二四条は婚姻についてであるし、一四条も「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、
性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とあるから、教科書(『詳説 日本史』)のP.353の「新憲法の精神にもとづいて、多くの法律の制定あるいは大はばな改正がおこなわれた。1947年に改正された民法(新民法)では、家中心の戸主制度を廃止し、男女同権の新しい家族制度を定めた。」また脚注の「戸主の家族員に対する支配権は否定され、家督相続制度にかえて財産の均分相続が定められ、婚姻・家族関係における男性優位の諸規定は廃止された。」をまとめればよい。
 
 もう一つが迷いそうだが、教科書にはその続きに、「刑事訴訟法は人権尊重を主眼に全面改定され、
刑法の一部改正で不敬罪・姦通罪などが廃止された。」とあり、そのままでよい。

 まとめると「
民法と刑法。民法改正により家中心の戸主制度が廃止され、家督相続制度にかえて財産の均分相続が定められ、婚姻・家族関係において男女同権の新しい家族制度が定められた。刑法改正で不敬罪・姦通罪などが廃止された。


 以上を、全部で400字でまとめればよい。


<野澤の解答例>
1陸海軍の統帥権。統帥権は軍の作戦・用兵などについて、議会だけでなく内閣からも独立して天皇に直属していた。緊急勅令の制定。緊急勅令は議会の協賛を得ないで天皇が発する法律にかわる命令であるが、次議会で承諾が得られなければ効力を失った。2幣原内閣が設置した憲法問題調査委員会が作成した改正試案は、依然として天皇の統治権を認める保守的なものだったため、GHQは極東委員会の活動が始めるのを前に、自ら改正草案を作成した。3高野岩三郎らによる民間の憲法研究会は、主権在民原則と立憲君主制をとった「憲法草案要綱」を発表し、GHQや日本政府にも提出していた。マッカーサー草案は、この憲法草案を参照していた。4民法と刑法。民法改正により家中心の戸主制度が廃止され、家督相続制度にかえて財産の均分相続が定められ、婚姻・家族関係において男女同権の新しい家族制度が定められた。刑法改正で不敬罪・姦通罪などが廃止された。(398字) 


 
2012.5.15


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