2017年度 『大阪大学 その4』  
   
     明治末から大正初期の民衆運動とその影響  
     
 (W) 日露戦争の終結時から第一次世界大戦前にかけて,首都東京を中心に政府を批判する大規模な民衆運動が相次いだ。これらの民衆運動について,政治的な影響にも触れつつ,具体的に述べなさい(200字程度)。  
     
  <考え方>
 
求められていることは 
 
     
 ア

日露戦争終結時から第一次世界大戦前までに東京中心に起こった政府を批判する大規模な民衆運動について具体的に書く
政治的な影響に触れつつ書く
200字程度で書く 
 
     
  ことである。

 多くの受験生が
「日露戦争終結時(1905)」は日比谷焼き打ち事件、「第一次世界大戦(1914)前」は第一次護憲運動大正政変(1913)だと目処を付けたと考える。
 それでは,実教の教科書『日本史B』から該当するところを抜き出してみる。 
 
     
 (1) (日露戦争の)講和会議はアメリカのポーツマスでひらかれ,同年(1905)9月,小村寿太郎とウィッテを全権として講和条約(ポーツマス条約)が調印された。
 大国ロシアとの戦争は日本の国力をこえたものであり,戦費のなかば近くは英米からの外債でまかなわれた。また国民の負担も大きく,多数の成年男子が動員されるとともに,非常特別税が課された。大きな犠牲にもかかわらす賠償金がとれなかったことに国民は不満をもち,日比谷公園でひらかれた講和反対の大会は暴動に発展した日比谷焼き打ち事件)。
 大会は国家主義者が主催したが,多数の都市下層民が参加していた。増税など戦時下の重い負担への不満が爆発し,内相官邸・政府系新聞社・交番などをおそった。鎮圧のため東京に戒厳令が公布された。(p.258〜259)
 
     
 (2) 第1次護憲運動)韓国併合後の1912(大正元)年には陸軍によって朝鮮に常駐する二個師団の増設が計画された。第2次西園寺内閣は,財政を理由にその要求を拒否したが,陸軍は陸軍大臣上原勇作を単独辞任させ,軍部大臣現役武官制を盾に内閣を総辞職に追い込んだ。日露戦争中の重い負担のなかで国民の権利意識は高まっていた。(第2次西園寺)内閣総辞職ののち,内大臣就任直後だった陸軍出身で長州閥の桂太郎が第3次桂内閣を組織すると,藩閥や軍部に対する国民の不満が爆発した。政友会の尾崎行雄,立憲国民党の犬養毅らが「閥族打破・憲政擁護」をスローガンに倒閣運動をおこすと,当初は政党政治家やジャーナリスト,弁護士などを中心とする運動だったが,たちまち民衆の間にひろがり,政府系新聞社や交番を襲撃する事件に発展した。その結果,1913年2月,桂内閣はわずか50日余りで倒れ(大正政変),民衆の直接行動が内閣を倒した最初の事例となった(p.277)  
     
 (3)   大正政変後,海軍大将で薩摩閥の山本権兵衛が政友会を与党に組閣した(第1次山本内閣)が,同内閣は世論を恐れて軍部大臣現役武官制を改革し,予備役・後備役の軍人でも陸海軍大臣になれるようにした。しかし,海軍にからむ汚職事件(ジーメンス事件)で国民の批判をあびると,翌14年3月に退陣し,国民や言論界に人気のあった大隈重信(第2次大隈内閣)にあとをゆずった。
 そこに元老井上馨が「天佑」とまで評した第一次世界大戦が勃発した。(p.277)
 
     
    ジーメンス事件が盲点であった受験生もいたのではないか。第一次世界大戦が勃発したのは第2次大隈内閣の時である。ジーメンス事件で退陣した第1次山本内閣の次が第2次大隈内閣だから,ジーメンス事件は,第一次世界大戦前である。

 ここから,
 
  日露戦争終結時から第一次世界大戦前までに東京中心に起こった政府を批判する大規模な民衆運動は,
日比谷焼き打ち事件第1次護憲運動大正政変ジーメンス事件
 
  政治的な影響は,
国民の権利意識を高めた民衆の直接行動が内閣を倒した最初の事例となった世論や国民の批判、人気は,内閣の成立・存続に大きな影響を与えるようになった 
 
     
  というベースが作成できる。以上を、各出来事を具体的に記しながら,200字程度でまとめれば良い。   
   
 
<野澤の解答例>
ポーツマス条約で,賠償金がとれなかったことに対する不満から日比谷焼き打ち事件が起こり、その後、陸軍によって第2次西園寺内閣が総辞職に追い込まれて第3次桂内閣が成立すると,藩閥や軍部に対する国民の反発は暴動をともなう第一次護憲運動となり,民衆の直接行動によって倒閣がなされた。さらにジーメンス事件でも国民の批判によって内閣が退陣した。このように国民の権利意識の高まりと行動は,内閣の存続に大きな影響を与えるようになった。(209字)


2017.3.3
 
     
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