2009年度 『大阪大学 その3』


【V】江戸時代の日本では蘭学が発展し、幕府政治にもさまざまな影響を与えた。開国以前において、江戸幕府は蘭学に対してどのような態度で臨み、どのような政策をとったのか述べなさい。(200字程度)

<考え方>
 問われているのは、

(1)何について書くのか=蘭学が幕府政治に与えた影響+蘭学に対する幕府の態度と政策
(2)いつの=開国以前

である。

 蘭学の発展の歴史について書くのではない
 
 ここでも【V】同様、実教の教科書を参考にまとめてみた。基本的にはP.230及び236〜237である。
 
(1)実学を奨励する徳川吉宗が漢訳洋書の輸入制限をゆるめたことによって、本格的に発達した。
(2)田沼時代に「解体新書」の刊行によって西洋医学が優れていることが明らかになり、医学分野でめざましく発展すると、幕府も西洋医学の有用性を認め教育にあたった。
(3)医学以外の分野でもさかんになり、幕府天文方の高橋至時は西洋天文学を研究し、伊能忠敬は幕府の命で全国を測量した。
(4)幕府は天文方に蛮書和解御用を設け、蘭書の翻訳にあたらせた。
(5)しかし幕府は蘭学を通して世界情勢についての認識を深めた蘭学者たちが幕府政治を批判することを警戒し、蛮社の獄などの蘭学者弾圧事件がおこった。
(6)対外関係が緊迫する中で危機感をもった幕府は、アヘン戦争の翌年、長崎の西洋流砲術家高島秋帆に演習を行わせた。また代官の江川太郎左右衛門は、伊豆韮山に反射炉を築き大砲を鋳造したほか、幕府の軍制改革行った。

<野澤の解答例>
 当初幕府は禁教のため洋書の輸入を禁止していたが、実学を奨励する徳川吉宗が漢訳洋書の輸入制限をゆるめたことによって、蘭学は本格的に発達した。田沼時代に医学分野で蘭学がめざましく発展すると、幕府もその有用性を認め、蛮書和解御用を設けて蘭書の翻訳にあたらせるとともに、受容を図った。しかし蘭学者の幕政批判に対しては、蛮社の獄などで厳しく弾圧した。一方で対外関係の緊迫の中で幕府は、蘭学の軍事面での利用を行った。(201字)

2010.3.5

参考:駿台予備校の模範解答
当初幕府は禁教目的から洋書輸入を禁じていたが、殖産興業をめざした徳川吉宗は実学奨励の立場から漢訳洋書の輸入制限をゆるめ、青木昆陽らに蘭語習得を命じた。田沼期以降、医学中心に蘭学が発展すると、その有用性を認めた幕府は実学分野に限定した受容を図り、蘭書翻訳機関として蛮書和解御用を設置した。外圧の高まるなか、幕府は鎖国政策を批判した蘭学者を蛮社の獄などで徹底的に弾圧する一方、蘭学の軍事的な利用を図った。(200字)

 
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