都内の女子高校生の方から、とても丁寧な質問のお便りをもらった。最近は受験生でもニックネームや、「ハンドルネームを持っていませんので」と無記名で質問してくる人もいて、多少不愉快な思いをしていた。そんな中、きちんと名乗った上で質問するという、当たり前のことができる高校生に「最近の若い子はやっぱりしっかりしている。」とうれしくなった。
(ぼくは基本的に質問にはすべて返事を書いているのだが、「○○についてもし知っていたら教えてください。」とだけ書いて送ってきた者がいて、さすがに無視したことがある。インターネットというのはそういうものなのかもしれないが、初対面の者にハンドルネーム=偽名で質問しようという感覚がやはりぼくには分からない。)
質問の内容は意外なことで、それはぼく自身「説明しなくても分かるだろう。」と授業でもきちんと理由を話していないことだった。
しかし高2で日本史を習い始めたばかりの生徒にとっては、こういう一つひとつをきちんと説明する必要があるのだと反省した。
彼女からの質問をここで取り上げたのは、同じようなことで疑問を持ったり、「こんなことを聞いたら莫迦にされるのではないか」と思って遠慮している人の一助になればと考えたからである。
<頂いた質問>
「国免荘」と「官省符荘」についてなのですが、前者は国司が、後者は太政官府・民部省府が「不輸・不入を認めた」と、教科書などには載っています。ですが、国司や国が税を免除したら、国側に税が入らないということになるので、利益がなくなってしまうのではないでしょうか?それらを行うことで、何かメリットが生じるのでしょうか?
これに対する回答を送り、末尾に「分からなかったらいつでも質問してください。」と書き添えたら、次のような返事が来た。
早々にお返事をいただけましたこと、大変ありがたく思います。お言葉に甘えさせていただき、お答えいただいた内容に対して、質問をさせていただきたいと思います。
「国免荘」ですが、国にとってメリットがないのは分かります。ですが、何故それが、任期満了間際の国司が、駆け込み的に収入を得るために行うこととつながるのかが分かりません。国司が税を免除すれば、国司の取り分も減ってしまうのではないでしょうか?
ぼくが送った2回の回答をまとめたものを紹介する。
<野澤の回答>
政府にとってのメリットそのものは「ない」といえます。だからこそ政府は何度も荘園整理令を出したのです。後三条天皇の「延久の荘園整理令」以外が実効をあげていないため見過ごされがちですが、政府は何度か公領を保つ努力=荘園整理令の発布をしているのです。
本家、領家の政治的な力で太政官符や民部省符を得て、租税免除の特権を獲得したものが官省符荘です。それに対して国免荘を成立させるための国司免判は、任期満了間際の国司が、駆け込み的に乱発するといった傾向にありました。国司が任期の末期に、自分自身や有力な貴族・寺社のために荘園を立券して、その後の生活、つまり帰京後の生活を有利に展開しようとしたのです。
自分の荘園ができることは直接富につながりますし、有力貴族の荘園を認めることで、彼らからの「覚えがめでたく」なるからです。
そのため当然国免荘は次期の国司の国内支配の障害となりました。結果、次期の国司によって収公されるものも少なくありませんでした。
2008.3.6